伊吹山は深田久弥が選んだ百名山の一つで、セメント工場やスキーリフトは目障りな物としています。
ですが古くから世に知られ歌や詩に読まれ、伝説として残っているほど人気のある山としています。
日本武尊(やまと たけるのみこと)が東征からの帰途、この山に妖神がいると聞き、それを退治に登ったところ、
その化身の大蛇に毒を当てられ、麓の醒ゲ井の水を飲んで毒から醒めたと言い伝えられています。
また深田は「言い伝えから、頂上に日本武尊の石像が立っているが、尊にお気の毒なくらいみっともない。」と記しています。
真夏というのに、ここのところ4.5日雨模様で今日の天候も危ぶまれたが、野草観察には差し支えない曇り空とまずまずの日和。
大阪駅からJRの快速米原行きに乗る。思ったより乗客も多いが、空席もある。座席を確保後、朝食抜きの腹にパンを詰め込む。
米原まではA さんから拝借した「伊吹山ミニ辞典」を読んだり「伊吹の花」のミニ図鑑を見る。
用意した伊吹山の花のチェックリストを配る。
配るといっても今日の参加者は、1人減り1人減りでとうとう2人になった。
もともと1人で来ようとしていたから別に気にしないが。
でも今日Oさんも参加で、共同で野草を見つけたり、花名を調べたりし、1人よりずっと楽だった。
近江長岡からバスに乗り換える。
駅前ではタクシーが3台留まっており、人数がそろえばタクシー利用の方法もありそう。
乗客は登山姿の6名。前の座席の若い女性は単独者。富士登山の訓練のため1合目から登るという。
我々より1時間30分も余計に歩くこととなる。
バス停をおりると、車掌さんより帰りのバスの説明がある。
今のバスは臨時バスで上野停(登山口)まで来たが、定期バスのときは徒歩15分手前の登山口停となる。
時刻表をよく見て、帰りのバスの停留所を間違えないようにと。
バス停の横の神社の階段を登り大鳥居の下をくぐり右手へ。道が分からなかったが先行者に続く。
谷川のそばを通り、5分ほどでゴンドラ乗り場に着く。付近にはマイカー駐車場があり、バス利用客と合流する。
ゴンドラ往復乗車券を1000円で買う。4人乗りのゴンドラが次々出発しているが乗客は少ない。
ゴンドラは主にスキー用で今はオフシーズンかも知れない。
ゴンドラから車窓の風景を期待したが霧で近くしか見えない。
真下には笹の葉の茂みが続き白い花や黄色い花が見え、野草への期待が高まる。
車内は蒸し暑かったが10分ほどで3合目登山口に到着。
3合目から
3合目広場には伊吹高原ホテルがあり、山の傾斜にそってスキー用のリフトが見られる。
この広い高原一帯はスキー場になっているようだ。ここから今日の野草観察のスタート。
山頂への矢印の標識にそって歩き始める。
まず最初のお迎えのご挨拶はエゾフウロだろうか。
「伊吹山ミニ辞典」を取り出しOさん、やはり
エゾフウロと同定する。
続いてコスモスや遠くにはユウスゲらしき花も見かける。セリ科の大形の花はシシウドと少し違うがよく似た花。
花弁に切れ込みのあるのは
イブキフウロだとOさん。
ここはススキなどの草原でゆっくり見たいところだが、帰りの余裕時間を見てから。
なだらかな山道から登りの坂道にかわり、スキー用リフトのコンクリートの建物下で小休止。
用意したおにぎりを食べる。
相変わらず霧雨模様であるが雨具をつけるほどでもない。野草はいつもの照りつける夏と違い、雨の多い夏に元気一杯。
木陰のない炎天下を予想していたが、気温23度と涼しく私たちも元気一杯。
紫色のこの花はなんだろうか。ヤブマメとは少し違うようだが。
ハクサンフウロ、コスモス、ユウスゲ、イブキフウロ、クサフジ、
クサボタン(写真)、
センニンソウ、タカトウダイ、コバノギボウシ、カワラナデシコ、ゲンノショウコ、ミズタマソウ、
ムラサキツメクサ等が見られた。
5合目から
出発から1時間ぐらいで、売店のある5合目に到着していた。いつの間にか4合目を過ぎていて少し得をした気分。
10人ぐらいが休憩をしていたが、そのまま通り過ぎた。休憩するほど急いで登っていなかったため。
「野草を見ながらゆっくり登る」。体力を考えた、最近の私の登山方法です。
一輪の白い花はヤマホタルブクロ。ホタルブクロとの違いは蕚片で湾入部は膨らむ。
クルマバナが多くなる。岩湧山と違い紫色があざやか。蕾のオトコヨモギ。晩春に咲くキセワタも見られた。
マメ科の黄色い花は有名なキバナノレイリンソウだろうか。
ヤマホタルブクロ、イブキタンポポ、
キセワタ(写真)、ハクサンフウロ、
クルマバナ、シシウド、ニセイブキゼリなどが見られた。
6合目から
開けた登山道はつづら折に登り、足元は雪解け道のようにドロドロ。
おまけに小石が、ぼた餅のように泥がついて滑りやすい。
登山者はこちらに一団、あちらにも一団と続き、若い人が多いのが喜ばしい。
1才の子どもをおぶって、2才と4才の子どもが上半身まで泥んこになり、
パパに叱られながら登っているのが印象的だった。山登りの訓練をしているのかな・・・。
大人ならひとまたぎの石段も這うようにして・・・。
この
5人家族と抜きつ抜かれつ登った。
シモツケソウ(写真)、キリンソウが咲いており、フジテンニンソウ、クサボタン、
イワアカバナが咲き始めた。
6合目の近くにコンクリートの建造物がある。
7合目から
登りは石灰岩の石ころが露出し、急な道で登りづらい。野草はこの岩肌にへばりつくように生えている。
背丈5cmほどの小さな紫色の花は
イブキジャコウソウ。
ジャコウの香りは「気付け薬」として知られる。葉っぱを指でもんで、Oさんとその香りを嗅ぐ。
歩き疲れかけた体に生気を取り戻す。
8合目で休んでいる、先の5人連れの親子に追いついた。
2才の坊やは泥んこになった両手を広げ、泣きべそをかきながら丸太にすわり休んでいた。
Oさんは皆んに元気付けの酸っぱいキャラメルを配った。
家族はあと少しで山頂のところ、ここから引き返した。やはり子どもの体力を考えたのか。
アカソ、ヨツバヒヨドリ、タムラソウ、イブキジャコウソウ、キンバイソウが見られシオガマギクが咲き始めた。
8合目から
山道は最も急になる。辛い登りでゆっくり登る。Oさんはあと9合目まで何分かと下山している人に尋ねる。
「下り20分だから30分ぐらい」とのこと。30分もあると聞くと、よけいに登りが辛くなる。
時刻は12時ごろ。山頂は13時ごろだから予定通りとOさん。
アカソの群落を過ぎ、フウロソウ科の花はAさんより借りた
伊吹山ミニ辞典で予習していたので、
晩春の花、南限の花の
グンナイフウロと直ぐに分かった。
冷夏と長雨でこの季節まで残ったのだろう。
それにしても嬉しいことである。
よく似た
クガイソウ(写真左)は葉は輪生で、
ルリトラノオ(写真右)は葉は対生とOさん。
伊吹山ではOさんが先生役。
アカソ、クガイソウ、グンナイフウロ、
ルリトラノオなどが見られた。
9合目から
道はなだらかな山頂の周遊路に入ったようだ。相変わらず霧の中で30mほど先しか見えない。
この湿りで生き生きとした草花が見られて、返って好都合だ。
道は粘土質で露出した岩肌につきドロドロで滑りやすい。
ギシギシの葉に似、上につきでた茎の上部に花穂をもつ花は何だろう。
しばらくして
イブキトラノオと判明。
暑い夏ならもうなくなっている花である。
山頂
山頂の建物が霧の中に浮かんできた。
13時頃予定通り山頂に到着。食堂兼売店に入る。温かいうどんを注文し、持参したおにぎりで昼食。
Oさんは野草の本やミニガイドのしおりを買い求める。
食堂の主人と店の客が関ケ原行きの直行バスの話をしているのを小耳にした。食事後尋ねると直ぐ下の駐車場から出ていることが分かった。
よかった、ゴンドラの帰りの切符は無駄になるが、あの滑りやすい急な下りを降りないですむ。
時刻を確かめて、山頂周遊路の西遊歩道を降りることを選ぶ。全体を回るには時間がなさ過ぎる。
西遊歩道
山頂を散策する人が多く、カメラの三脚を広げるのが邪魔になり、
一脚状にして撮る。
コオニユリやシモツケソウ、咲き始めたサラシナショウマなどが
霧中に映え絶好の被写体である。
西遊歩道を下り間もなく山頂駐車場に着く。15時30分発の関ケ原行きバスに1分前で間に合った。
本当は16時20分発でゆっくりしたいところだが。
シュロソウ、コオニユリ、シモツケソウ、イブキトラノオ、サラシナショウマ、メタカラコウ、ハクサンフウロ、ワレモコウ、ヤマハッカ、
タムラソウ、ツリガネニンジン、キンミズヒキ、オトギリソウ、キヌタソウ、ミツバフウロ、オオバギボウシ、ツルアジサイ、タニソバ、
オオヨモギなどが見られた。
伊吹山で見た花
アカソ |
オトギリソウ |
クルマバナ |
ダイコンソウ |
ミツモトソウ |
アキカラマツ |
オトコヨモギ |
グンナイフウロ |
タカトウダイ |
ムラサキツメクサ |
イタドリ |
カワラナデシコ |
ゲンノショウコ |
タムラソウ |
メタカラコウ |
イブキアザミ |
キセワタ |
コウゾリナ |
ツリガネニンジン |
ヤマハッカ |
イブキジャコウソウ |
キツリフネ |
コオニユリ |
ツルアジサイ |
ヤマホタルブクロ |
イブキタンポポ |
キヌタソウ |
コバノギボウシ |
ニセイブキゼリ |
ユウスゲ |
イブキトラノオ |
キリンソウ |
サラシナショウマ |
ハクサンフウロ |
ヨツバヒヨドリ |
イブキフウロ |
キンバイソウ |
シオガマギク |
ヒメフウロ |
ルリトラノオ |
イワアカバナ |
キンミズヒキ |
シシウド |
フジテンニンソウ |
ワレモコウ |
ウツボグサ |
クガイソウ |
シモツケソウ |
ミズタマソウ |
ナンテンハギ |
エゾフウロ |
クサフジ |
シュロソウ |
ミゾソバ |
ミヤコグサ |
オオバギボウシ |
クサボタン |
センニンソウ |
ミツバフウロ |
計59種 |
伊吹山に登って
本来なら晩春に咲くグンナイフウロ、イブキジャコウソウ、タカトウダイ、キンバイソウ等が見られた一方
盆すぎにはなくなるシモツケソウが最盛期で山を真っ赤に飾って迎えてくれました。
また秋の花コイブキアザミ、ワレモコウ、シオガマギク、タムラソウ、ヤマハッカ等が見られました。
山頂は曇り、気温は20度、霧で見通しの悪いコンデションでしたが、返って草花は元気で、クガイソウ、ルリトラノオ、シモツケソウ、
コオニユリ、イブキトラノオ等の花をこれでもか、これでもかと見せつけられ大満足。
50種類以上の未知の野草に出会い、深田久弥に言わせれば山に滞在した5時間30分は、「まさにこの世の極楽であった。」
15.8.13読売新聞夕刊「今年の夏の気温が低かったせいか、秋の花が早く咲き始めた。
そして遅れたいた夏の花とともに山は思いがけなく百花繚乱、夢の世界となった。・・・」
の報道が、2人になってしまった観察会決行の後押しとなった訳ですが、まさにその通りでした。
食堂の主人に聞いた下山方法もよかったと思います。
Oさんと相談し、雨でぬかるんだ急坂の下山を避け、山頂駐車場からバスで関ケ原まで下ったことです。
山に滞在する時間が延びた一方、大阪までの到着時間が予定より1時間も早く、18時14分となったこと。
■四季彩館のOさんからのアドバイスと、譲ってもらった青春18切符、有難うございました。車による帰省の混雑を避け、
JR電車利用が正解でした。